
「前にも教えた」で終わらせず、一件の再指導を組み直します。
薬局の新人指導で同じ注意を繰り返すのがつらい。昨日説明した作業で、今日も手が止まる。本人は「分かりました」と言うのに、どこが伝わっていないのか見えない。忙しい時間帯ほど、説明を短くして同じ言葉を強めたくなります。
ただ、一度教えたことと、同じ条件で本人ができたことは別です。注意の回数を増やす前に、観察した行動、作業の条件、次に試す一動作を分けて確認します。本記事は研修全体の設計ではなく、一件の指導後に認識がずれた場面の整理です。
この記事の要点
- 「またできなかった」を、実際に見た行動へ書き換える。
- 前回と今回で、本人が担った作業と支援の条件を比べる。
- 次の一動作を決め、試した時の経過を同じメモへ戻す。
まず今日確認すること
繰り返している注意を一件選び、前回の指示と今回の観察を並べてください。患者安全に関わる事象はこの振り返りを待たず、所属先の所定手順と責任者対応を優先します。
目次
結論:同じ注意の前に一件を見直す
指導をやり直す入口は、本人の意欲を判定することではなく、同じ場面を一緒に確かめることです。

「覚える気がない」と感じても、その場で見た事実とは分けます。途中からしか作業を見ていないなら、開始時の確認は分かりません。まず観察できた範囲を示し、本人が何を見て判断したのかを聞きます。未確認の部分を推測で埋めないことが出発点です。
この三つの軸は、編集部が提案する振り返りの補助です。全国共通の新人評価や、薬剤師の独り立ち認定の基準ではありません。所属先の研修手順、安全確認、業務範囲を変更せず、一件の再指導を具体化するために使います。
公式資料と本記事の提案を分ける
厚生労働省の職業能力評価シートについてでは、本人と上司の評価に生じる認識の違いを、面談でフィードバックする活用方法が示されています。一般的な人材育成資料であり、薬剤師専用の判定基準として紹介するものではありません。
以下では、その認識差を一件の作業で確かめる方法を提案します。本人の説明を聞くことと、必要な安全確認を終えることは別です。説明に納得しても、監査や確認を省いてよいとは判断しません。指導の話し合いを事故報告の代わりにも使わないでください。
1. 観察した行動をそろえる
最初のメモには、性格の評価ではなく、見た行動と見ていない部分を残します。

「前と同じミス」では、面談で何を扱うかが定まりません。今回見たのは、手順を飛ばした動きなのか、別の資料を選んだことなのか、保存先を探して止まった場面なのか。一件の中にも違う論点があります。指導者が問題にした行動を先に絞ります。
匿名の練習課題で、一場面に限定する
ここからの例は、研修用の匿名サンプルを所定の様式へ記録する架空の練習です。実在の新人や店舗の事例ではありません。処方箋、患者情報、実際の調剤作業は使いません。指導の会話を具体化するため、様式を選ぶ場面だけを扱います。
観察メモの例(架空)
- 課題:研修用の指定様式で匿名サンプルを記録する。
- 見た行動:指定された版とは別の様式を開いていた。
- 見ていない部分:開く前に何を照合したか。
- 本人へ聞くこと:その様式を選んだ理由と、確認した場所。
別の様式を開いたことだけで、「確認をしていない」と断定しません。本人は別の場所を正本と思って見たのかもしれません。確認したが版表示の見方が違ったのかもしれません。理由は聞くまで不明です。観察と理由の説明は、メモでも欄を分けます。
問いは「なぜまた間違えたの」ではなく、「どこを見て、その様式を選びましたか」です。指導者が答えを先に言わず、本人の参照先を確認します。覚えていないと答えたなら、「覚えていない」と残します。納得できる原因を、その場で無理に作らせないでください。
指導者と本人のメモが違ったら
本人が「指定場所を見た」と話し、指導者は「別の場所から開いた」と考えている場合もあります。その違いを、どちらかの嘘と決めないでください。練習用の画面や手順を一緒に確認し、照合できない部分は未確認として次へ残します。
本人の説明は、その人がどう受け取ったかを知る材料です。それだけで実際の操作履歴を確定するものではありません。教育記録に作業履歴を記載する時は、見た事実、本人の説明、指導者の推測を混ぜず、所属先が認める方法で扱います。
2. 前回と今回の作業条件を比べる
「前回できた」を判断材料にする前に、その時の支援と今回の担当範囲を並べます。

前回の練習では、教育担当が指定様式を開いて渡していました。今回は、本人が保存場所から様式を選ぶところまで任されています。これは架空例の設定です。前回の記録作成が終わったとしても、様式を選ぶ動きまで確認できたわけではありません。
支援付きで終えた作業を、そのまま単独でできる証拠にしないことを提案します。前回はどの工程を指導者が代わりにしたのか。本人はどこからどこまで行ったのか。完成した記録だけでなく、途中の役割を見直します。
前回との差を残す例(架空)
前回:担当者が指定様式を開き、本人は記入から始めた。今回:本人が様式の選択から始めた。未確認:正本の場所と版表示を、本人が参照できる形で伝えていたか。次の確認:練習用の様式を選ぶ場面を担当者が見る。
指示内容を確認できる材料がなければ、伝達の有無は未確認です。手元の指示と本人の認識を並べ、次の練習の条件をそろえます。
中断があった時は、能力と別に記録する
前回は連続して練習できたのに、今回は途中で別の依頼が入った。見本の置き場所が変わった。質問先が勤務していなかった。こうした違いも確認対象です。ただし、忙しさを原因と決めつけず、実際に中断した場面や参照できなかった資料を残します。
途中まで見た一件から、新人全体の能力を決めないでください。未経験の工程、資料へのアクセス、支援の有無が違うなら、同じ条件の比較ではありません。人事評価や独り立ちの判断は、一件の面談メモだけで代替せず、所属先の基準と手順へ戻します。
過剰な期待をかけた経験から考える
執筆者には、部下の能力を見誤り、過剰な期待をかけて潰してしまった失敗があります。ここで紹介した新人の練習は、その失敗の再現ではありません。指導が成功した経験としてではなく、期待のかけ方を考える背景としてお伝えしています。
そこから本記事で伝えたいのは、期待と確認できた行動を分けることです。「このくらいはできるはず」は、実際に見た動きの代わりになりません。経験談を、すべての指導の失敗原因に一般化せず、次に任せる工程を確かめるための判断軸として扱います。
3. 次に試す一動作を決める
次の指導は「もっと気をつける」ではなく、確認したい一つの動きへ絞ります。

架空例では、記入の速さや保存方法も一度に直すのではなく、様式の選び方を確認します。「着手前に、指定の参照場所と版表示を照合する」と伝えます。照合先が分からない時は作業を止め、決めた教育担当へ確認するところまで共有します。
一動作へ絞るのは、他の安全手順を省くという意味ではありません。練習の観察焦点を一つにする提案です。実業務の確認項目、監督、監査、作業範囲は所属先の手順を維持します。本記事の例を根拠に、新人を単独の調剤業務へ移さないでください。
本人の言葉で、照合先を確かめる
「分かった?」だけで閉じず、「次はどこを見て、何が違ったら止めますか」と聞きます。指導者の言葉をそのまま復唱できても、資料を開けるとは限りません。口頭の説明と実際の練習は別に確認します。本人が示した参照先が違えば、その場で修正します。
指導者も、示した資料が現行のものかを確かめます。指示が手順書と食い違う時は、新人へ選ばせず、責任者が正本と指示を整理します。
次に試す動作と、指導者が用意する条件をセットで残します。架空例なら、指定の様式が参照できること、版表示の見方が分かること、担当者が選択場面を見られることです。本人への課題だけを書き、準備する側の仕事を消さないことが狙いです。
次回の観察で、結論を急がない
次の練習で指定様式を選べたなら、確認できたのはその条件での選択です。記入から保存まで一人で任せてよい証拠にはしません。途中で担当者が場所を示したなら、「声かけ後に選択」と残します。できた、できないの二択では、支援の程度が消えてしまいます。
練習できなかった時は、未実施と書き、失敗件数へ足さないでください。担当者が観察できなかった場合も、何ができたかは未確認です。再試行の時点と担当を調整し、予定だけが繰り返されているなら、時間や支援の確保を責任者へ相談します。
一件の面談を組み直す手順
一件の観察メモを、面談、次の練習、結果の照合まで同じ記録でつなぎます。

新しい評価表を増やす前に、所属先の教育記録で一件の経過を追えるかを見ます。既存の記録へまとめ、別の担当へ渡す時は、どれが最新の経過かを明示します。
話し合う一件を、冒頭で共有する
架空例の面談なら、「今日は記録全体の評価ではなく、様式の選択を確認します」と始めます。観察した事実を伝え、本人の説明を聞き、前回は担当者が様式を開いていた点を確かめます。別の問題が出ても、その場で全部の評価へ話を広げないようにします。
本人が話す前に、説明不足や意欲不足を原因として宣告しないでください。指導者の見方と本人の説明がそろわない場合は、両方を残します。面談の終わりに必要なのは、反省の言葉を増やすことではなく、次に何を見るかが分かることです。
決めた内容を、次の担当にも渡す
記録には、一動作、練習の条件、観察する担当、次の確認時点を残します。勤務が替わるなら、次の担当者が同じ参照先を使えるかも確認します。面談をした人だけが内容を覚えていて、別の人が最初から注意し直す形を避けるためです。
確認時点は、作業の機会、研修計画、指導者の勤務に合わせます。一律の回数や日数では決めません。実施の見通しがなければ、本人だけに宿題を渡さず、責任者へ観察時間と支援の不足を示します。
次の練習後に残すメモの形(編集部提案)
- 今回の条件:見本、参照場所、担当者の支援はどうだったか。
- 観察した行動:選んだ様式と、照合・相談の有無。
- 前回との違い:どの工程を本人が行い、どこを補助したか。
- 残る問い:今回の観察だけでは判断できないこと。
「できた」と残す時も、条件と支援を一緒に書きます。正しい様式を選んだ事実があっても、担当者が先に誘導したなら、その支援を記載します。反対に、質問して止まれた動きも観察として残せます。質問したこと自体を、失敗の数へ機械的に足しません。
指導の工夫だけでは動かせない条件
正本が複数ある、指導者ごとに版の指定が違う、観察の時間が取れない場合は、新人への注意だけでは条件が整いません。どこが食い違い、誰の判断が必要なのかを責任者へ示します。自分が店舗責任者なら、本部の教育担当や所定窓口へ確認先をつなぎます。
本人が説明しにくい場では、人前で繰り返し答えさせず、業務と調整して話せる場所を確保します。話し合いが成り立たない時は一人で抱えず、教育責任者や所属先の相談先へ戻します。人格を責める言葉を、具体的なフィードバックとして扱わないでください。
指導記録は、必要な担当者が使う業務記録として扱います。患者情報や不要な個人情報を例に入れず、所属先の保管・共有手順に従います。私的な端末や外部サービスへ転記して相談する前提にはしません。この方法は改善効果を検証した訓練ではなく、編集部の運用提案です。
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このページは、一度教えた後の再指導と次の一試行に絞っています。研修の全体像や任せる体制は、別の記事で確認できます。
一件の再指導と、教育体制の課題を分けて見る
- 薬局で新人研修を回す3点:研修全体の組み立てを確認する時に。
- 薬局で教育体制がない時の3つの構造:基準や見本、戻り先がそろわない時に。
- 薬局で任せ方が崩れる構造:指導後も担当範囲が曖昧な時に。
まとめ
同じ注意が続いた時は、一件の観察、前回との条件差、次の一動作へ戻して指導を見直します。

前回どの工程を支援し、本人が何を参照したかを確かめます。指導者が見ていない部分も分け、次の練習で面談の一動作を同じ問いで照合してください。
- 観察した事実と、本人の説明や推測を分ける。
- 前回と今回で、本人が担った工程と支援を比べる。
- 次の一動作、練習条件、担当、確認時点を残す。
注意の強さではなく、次に何を確かめるかを変える。まずは一件のメモから始めることを提案します。安全上の事象、独り立ちの認定、人事評価はこのメモだけで判断せず、所属先の手順と責任者の対応を優先してください。
よくある質問
Q. 同じ注意が続くのは、新人の意欲がないからですか?
A. 注意の回数だけでは判断できません。観察した行動、本人が参照した情報、前回と今回の支援条件を分けて確認します。分からない部分は、意欲の問題と決めつけず未確認として残します。
Q. 前回できた作業なら、次は一人で任せてよいですか?
A. 前回どの工程を本人が行い、どこに支援があったかを確かめます。一件の練習結果を独り立ちの認定に置き換えず、業務範囲と安全確認は所属先の研修基準・手順に従ってください。
Q. 次に試す一動作は、どう決めますか?
A. 一件の観察と条件差から、次に見たい動きを選びます。参照先、必要な支援、観察する担当、確認時点も残します。焦点を一つにしても、実業務の安全手順や監査は省きません。
Q. 次の練習を実施できなかった時はどう記録しますか?
A. 未実施と残し、できなかった結果に数えません。担当者が見られなかった場合は未確認です。再試行の時点と担当を調整し、機会を確保できない状態が続くなら責任者へ相談します。
Q. 患者安全に関わるミスも、面談から始めますか?
A. いいえ。所属先の安全管理・事故対応手順と責任者対応を先行します。面談や教育記録を必要な安全確認・報告の代わりにせず、個別の対応は所定の責任者へ確認してください。
免責事項・出典
本記事は新人指導の振り返りに関する一般的な情報提供です。医療判断、業務範囲の可否、独り立ち認定、人事処分、個別の労務・法的判断、事故対応を代替しません。現行の公式資料、所属先の手順、責任者や所定窓口の案内を優先してください。編集部の提案は改善効果を保証しません。
- 厚生労働省「職業能力評価シートについて」:本人と上司の認識差を面談で扱う一般的な育成資料。確認日:2026-10-03。
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