
災害が起きてから探す資料を、平時に開いておくための確認順です。
薬局に災害BCPのファイルがあっても、「誰が判断するか」「何を優先するか」「どこへ連絡するか」を、当日の勤務者がすぐに言えないことがあります。文書を作った時点では決まっていた連絡先や担当者も、異動やサービス変更で古くなります。
平時の点検で最初にするのは、ファイルを開き、今の勤務者が使えるかを見ることです。災害時の個別の開局・調剤・医薬品提供の可否は、この記事では判断できません。
管理薬剤師が平時に見直す軸は、①判断者と代行者、②優先業務と使える資源、③地域・所属先への連絡経路の3点です。これは公式マニュアルの代わりではなく、今あるBCPを実際に使える状態に近づけるための編集部フレームです。
- 最初に文書の場所を確かめる。最新版がどこにあり、勤務者が開けるかを確認します。
- 人と業務を同時に見る。責任者名だけでなく、不在時と資源不足時の相談経路を確かめます。
- 地域の取扱いは別に確認する。自治体、薬剤師会、所属先の最新案内を優先します。
目次
まず結論:BCPは3つの経路で点検する
最初の作業は、BCPを新しく書き直すことではありません。今ある文書を開き、担当者、優先業務、連絡経路の三つが同じ版で読めるかを確認します。

東京都の薬局BCP手引きは、限られた業務資源でも必要な業務を続けられるよう、事前準備を行うという考え方を示しています。東京都は、薬局の業務継続と地域の医療救護活動という二つの役割も整理しています。ただし、地域の救護体制や連絡先を東京都の例から全国へそのまま移すことはできません。
公式資料と編集部フレームは分けて読む
公式情報の入口
- 厚生労働省「薬局・薬剤師の災害対応」:災害ごとの事務連絡と改訂版マニュアルの案内。
- 日本薬剤師会「薬剤師のための災害対策マニュアル」:災害時対応のひな形。同会はBCPの参考として第2章・資料1-2を示しています。
- 東京都「薬局における事業継続計画(BCP)の策定について」:事前準備と地域での役割を考える資料。
この記事の三つの問いは編集部の整理であり、法令で一律に定められた点検順ではありません。実際の運用には、管轄自治体、所属法人、地域薬剤師会等の現在の資料が必要です。
厚生労働省のページには、令和8年熊本地震について2026年7月29日付の事務連絡も掲載されています。災害ごとに出る特例は時期・地域・対象が異なるため、平時BCPに「いつでも同じ特例が使える」とは書けません。資料のリンクと確認日を残し、発災時には最新の通知へ戻る設計にします。
1. 判断者と代行者を確かめる
担当者名が一つあるだけでは、休暇や被災で連絡がつかない時に判断が止まります。役職ではなく、判断・報告・代行の経路を文書に沿って確認します。

例えば、営業時間外の安否確認、店舗の安全確認、開局方針の連絡は、同じ人が担うとは限りません。実際の分掌は所属先の規程で決めるものです。管理薬剤師が独断で決める代わりに、BCPにある担当と代行者を読み合わせ、曖昧な箇所を法人・責任者へ確認します。
- 判断者: 開局・休止などの方針について、所属先の正式な判断経路はどこか。
- 代行者: 判断者と連絡不能なら誰が受け、どこへ上げるか。
- 共有先: 当日の勤務者が同じ情報を確認できる手段は何か。
連絡網が個人の端末にしかない場合や、異動前の担当者名のままの場合は、計画があっても運用に移せません。個人情報を不用意に広げず、所属先の情報管理ルールに沿って最新版を置きます。人が替わっても判断経路が残るかが、平時の点検ポイントです。
担当変更があった日を更新の入口にする
BCPを年に一度開く予定でも、その間に異動、退職、勤務体制の変更があれば、連絡網は先に古くなります。担当者が変わった時に「BCPのどの欄が変わるか」を確認する運用を、所属先の通常の引き継ぎへ結び付けると、特別な会議を待たずに未更新箇所を見つけられます。これは更新頻度を一律に指定するものではなく、既存の文書管理手順へ戻るための提案です。
確認する際は、氏名だけを新しくするのでは足りません。代行者が変更を知っているか、休日・夜間の連絡手段が現在も使えるか、勤務者が最新版へ到達できるかも併せて見ます。個人の電話番号を安易に複製する代わりに、閲覧権限と保管先を所属先のルールに合わせます。更新できない欄は空白のまま隠さず、誰がいつ確認するかを担当者に戻してください。
2. 優先業務と使える資源を結ぶ
BCPが通常業務の一覧だけになっていないかを確かめます。停電、通信障害、人員不足、医薬品の供給制約が重なると、通常どおりの順番では動けないことがあります。

東京都の手引きは、災害時に限られた資源で必要な業務を続けるための事前準備を促しています。ここから、既存BCPの各業務について「必要な人」「使う設備や記録」「代替手段の相談先」を対応させて見ることを提案します。優先順位の具体的な決定は、所属先の正式なBCPと責任者に従います。
確認の例(編集部提案)
優先業務の欄に「処方箋受付」とだけあるなら、受付可否を誰が判断し、通信・電源・薬歴を使えない時はどこへ相談するかを、既存手順の参照先とともに記します。この記事は代替調剤手順や処方箋なしの医薬品提供を指示しません。
単に「予備電源を買う」と書くだけでは、使える状態か分かりません。点検日、保管場所、使用判断者を既存の管理記録へ結ぶことが重要です。ただし、必要な設備や備蓄量は店舗・地域の被害想定により異なります。この記事の例を一律の購入基準にしないでください。
一つの業務を選び、前提が崩れた時をたどる
優先業務の一覧を眺めるだけでは、実行可能性を確かめにくいものです。例えば、現行BCPに「患者への連絡」とあるなら、連絡の判断者、使う記録、通信が不通の時の相談先を文書からたどります。連絡できない場合に現場が独自の代替手段を決めるのではなく、既存手順のどこに戻るかを確認します。
この方法は、災害時の調剤方法を記事が示すものではありません。業務と資源の対応を見て、文書に書かれていない依存関係を洗い出すための平時の点検です。点検で見つけた不足は、現場の一人に判断させず、法人や責任者へ伝えます。複数店舗で共通のBCPを使う場合も、店舗ごとに設備、備蓄、連絡先、勤務体制が異なる部分は、共通文書と店舗資料のどちらを正本にするか確認が必要です。
3. 地域・所属先への連絡経路を確かめる
店舗の中だけで解けないことがあるため、連絡網は内部と外部の両方が必要です。誰に、どの手段で、何を伝えるかを、平時に資料で確かめます。

東京都の薬局BCP手引きは、地域の医療救護所等と連携するため、平時に運営方針や連絡方法を確認することを示しています。これは東京都の地域体制を述べた資料です。ほかの地域では、自治体、薬剤師会、医療機関、卸、所属法人との関係を、それぞれの正式な案内で確認します。
- 所属先: 店舗の被害・開局状況を報告する経路と、方針が戻る経路。
- 地域: 自治体や地域薬剤師会からの正式な情報の入口。
- 取引先・連携先: 卸、近隣薬局、医療機関等について、所属先が定めた連絡方法。
停電や通信障害で普段のチャットだけが使えないことも想定します。ただし、電話、紙、別回線などの代替方法は、情報保護と所属先の規程に沿って決めるべきです。個人の私的連絡先を無断で共有したり、患者情報を一般の連絡網へ載せたりしないことも重要です。
連絡先の一覧より、情報の出どころを確かめる
災害に関する通知は、時期と対象地域によって変わります。過去に保存したPDFや転送された画面だけでは、現在も有効な取扱いか分かりません。平時のBCPには、特定の特例を固定的に書くのではなく、厚生労働省、管轄自治体、地域薬剤師会、所属先の最新情報へどう到達するかを残す方が安全です。
連絡網の点検では、一覧の更新日、情報を出した主体、確認した担当者も見ます。数字や名称が正しいか判断できない場合は、記事の記述を根拠に修正せず、正式な窓口へ確認します。地域の医療救護所等への参加方法も、東京都の例を他地域に当てはめず、管轄の案内と所属先の方針を優先してください。
短い共有で文書を動かしてみる
BCPの点検は、分厚いファイルを全員で読み切ることだけではありません。現行版を開き、担当・優先業務・連絡経路について、当日の勤務者がどこを見るかを短く確認します。以下は法令上の必須訓練ではなく、編集部の平時の共有案です。

版、保存場所、更新担当を確かめる。
判断者が不在という想定で代行・相談先を探す。
必要な人・設備・情報と、使えない時の戻り先を読む。
地域・所属先の現在の案内へ到達できるか確認する。
即席の判断で埋めず、正式な更新担当へ回す。
今日の15分で、未確認点を一つだけ残す
忙しい日に、BCPを丸ごと作り直す時間は取りにくいものです。まずは朝礼や引き継ぎの時間を調整し、勤務者一人に「最新版を開いてもらう」ところから始めます。以下の15分は編集部が提案する目安です。実施時間と担当は通常業務を妨げないよう決めてください。
- 最初の5分:別の勤務者が保存先から現行版を開く。開けなければ、閲覧権限や保存先を未確認点として残す。
- 次の5分:「判断者が不在」という場面を一つ置く。代行者と相談先を文書から探し、見つからない欄をメモする。
- 最後の5分:未確認点を一つ選び、更新担当と次に確認する日を決める。開局方針や調剤手順をその場で新設しない。
未確認点メモの記入例(架空の平時点検例)
- 確認した箇所:担当者一覧の代行者欄。
- 分かったこと:前任者の名前が残っている。
- 未確認点:現担当者と連絡方法が、引き継ぎ資料と一致するか。
- 次の行動:文書更新担当へ照会し、回答後に現行版へ反映。確認日は担当者間で決める。
これは点検の記録例です。実在の店舗の事例や、災害時にその人が判断権限を持つという意味ではありません。
更新が止まる薬局で起きやすいずれ
編集部の運用考察では、文書の保管場所だけ共有して担当者が古い、備品だけ見て優先業務が曖昧、連絡先はあるが誰が連絡するか不明、といったずれを見落としやすいです。三つの経路を別々に点検してから、同じ想定でつなぐと、更新すべき箇所が見えます。
執筆者は、工数が崩れた現場でほぼ一人で業務を回し、人に任せられず抱え込んで限界を迎えた経験があります。これは災害時の活動経験ではありません。業務一般の経験から、重要な情報と判断を一人だけが保持しない設計は大切だと考えています。実際の権限と責任は、所属先の規程と指示に従ってください。
点検後に残すのは「正解」より未確認点
短い共有をした後は、すぐに全員分の結論を作る必要はありません。現行文書で確認できた箇所と、担当者・版・連絡先が未確認の箇所を分けて残します。後者には確認先と更新担当を付け、担当者が判断した結果を次回の勤務者にも伝わる場所へ反映します。口頭だけの申し送りでは、別のシフトで同じ疑問が再発するためです。
文書を更新したら、旧版との取り違えにも注意します。保存場所が複数ある場合は、正式な最新版の場所と旧版の扱いを所属先の文書管理手順で確認します。年次の見直し日だけでなく、連絡網や業務手順に変更が起きた時に、この三つの経路を読み直せる仕組みが重要です。
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日常の運用も別の入口から点検する
まとめ
薬局の災害BCPを平時に開き、次の三つを確かめます。

- 判断者と代行者を、当日の勤務者が確認できるか。
- 優先業務と必要な資源が、既存BCPで結び付いているか。
- 所属先と地域への連絡経路を、現行資料からたどれるか。
BCPは一度作って終わりではなく、現在の人員・業務・地域の案内に合わせて使えるかが大切です。迷った箇所はその場で制度判断に変えず、所属先の責任者と最新の公式資料へ戻しましょう。
よくある質問
Q. 薬局の災害BCPは何から見直すとよいですか?
A. まず現行版を開き、判断者と代行者、優先業務と資源、所属先・地域への連絡経路が確認できるかを見ます。これは編集部の点検順であり、所属先の正式なBCPと地域の案内を優先してください。
Q. 日本薬剤師会の災害対策マニュアルをそのまま自店のBCPにできますか?
A. 同会は改訂版マニュアルを対応のひな形として案内し、災害BCPの参考箇所も示しています。店舗の被害想定、人員、地域連携、所属先の規程に合わせて確認してください。
Q. 管理薬剤師が不在なら、その場の薬剤師が開局を決めてよいですか?
A. 本記事では決められません。所属先の正式な判断者・代行者・連絡経路をBCPで確認し、判断できない場合は責任者や所定窓口へ戻してください。
Q. 熊本地震で示された特例は、ほかの災害でも使えますか?
A. 災害ごとの事務連絡は時期、地域、対象が異なります。過去の特例を恒久ルールとして使わず、その時点の厚生労働省、管轄自治体、所属先の最新案内を確認してください。
Q. 災害時に処方箋がない患者へ薬を渡せますか?
A. 医薬品の提供や調剤の可否は、個別の法令、災害時の通知、患者の事情等によります。本記事から判断せず、最新の公的通知と所属先の責任者・所定窓口へ確認してください。
免責事項・出典
本記事は一般的な情報提供と平時の業務整理を目的としています。発災時の開局、調剤、処方箋なしの医薬品提供、麻薬の取扱い、診療報酬・保険請求、患者情報の扱い、地域の救護体制は、災害の状況と最新の法令・通知、管轄自治体、所属先の規程によって異なります。本記事だけで個別対応を決めず、所定窓口や専門家に確認してください。